2010年3月18日木曜日

つらい記憶を書き換える、PTSDの新たな治療法

記憶を永遠に書き換えることは可能だろうか。それが可能だと考える科学者たちによって現在、記憶を置き換えるための新たな手法が研究されている。その手法が実用化されれば、恐怖感や外傷後ストレス障害(PTSD)、その他の不安症状を治療することができるかもしれない。

 帰還兵や自動車事故の生存者、レイプ被害者などを対象に、一般的な血圧降下剤を使用して、悪い記憶を良い記憶に置き換える研究や、例えば幼少期に犬にか まれた記憶など、不安増殖因子となって人に恐怖感を抱かせるような記憶を、行動セラピーによって修正する研究などが現在行われている。

 いずれの研究も、その目的は記憶を完全に消し去ることではない。記憶の消去は倫理的な問題や疑問が残る。代わりに、「記憶に伴う恐怖感を軽減または除去 することができれば理想的だ」と、この分野で幅広い研究を行う米ハーバード大学医学部精神科教授、ロジャー・ピットマン博士は言う。

 最新の研究では、記憶が脳に格納される仕組みについて抜本的な見直しが行われている。かつて記憶はスナップ写真のように、一度記録されると細部は固定さ れたままになると考えられていた。だが現在では専門家の多くが、記憶は棚に収納されている個別のファイルのように、取り出して閲覧したら、しまうときには 別のファイルに置き換えることができるという考え方に賛同している。つまり、記憶を棚から取り出している間に修正すれば、古い記憶を、新たに更新された記 憶と置き換えて格納し直すことができるということだ。

 外傷を伴う出来事を経験すると、たとえ間接的であっても、その出来事を思い出すたびに毎回恐怖感に襲われるようになることがある。例えば、帰還兵が、車の爆発事故を目撃したときに、頭の中で爆音が戦争時の体験と結び付けられ、感情的な反応が引き起こされる場合がある。

 そこで研究者たちが現在取り組んでいるのが、そうした恐怖感を長期的または永久に弱める新たな手法の開発だ。すなわち、最初の記憶を格納庫から取り出し た後に治療を施し、元の記憶が別の新しい記憶に置き換えられて蓄積されるようにする方法だ。その1つが、まず被験者に原因となった出来事を詳しく記述さ せ、それを治療のたびに読ませるやり方だ。